先生に会いたくなったら
帰宅してから20時間眠り続け、足の爪は剥がれ、
数日間は傘を杖替わりにしないと歩けなかった過酷な富士山登頂後、
山から遠のいていた私に山登りの楽しさを教えてくれたのは中学時代の恩師でした。
二十数年ぶりに同窓会で再会し、山登りにお誘いいただき、
今度こそは!と、ちゃんとした装備で参加しました。
林間学校のときのように一緒に歌を唄ったり、
山に咲いている珍しい植物の名前や、
山頂で飲むワインのおいしさを教えてくれました。
いつも歩くペースを合わせてくれて、
そばで励ましたり笑わせたりしてくれました。
何度か連れて行ってもらううちに、山の魅力に取り憑かれ、
このまま先生にもっといろんなことを教わりたかったし、
教われるものだと思っていました。
でも、ある日入院したという知らせがあり、
「絶対退院するから、そしたらまた山に行こうな」と
メールをもらってから数週間後、先生は旅立ってしまいました。
私よりずっと健脚でタフで酒豪で、
すぐに回復してまだまだ続くと信じて疑わなかった先生の命の灯が
こんなにあっけなく消えてしまったことに愕然としました。
心に大きな大きな穴が開きました。
そして、同窓会の日の山登りのお誘いを、
仕事が落ち着いたら、とか、子どもの受験があるので、
なんて言い訳して先延ばしにしてたら、
一生後悔してただろうな、とも思いました。
大切な人や大好きなことのためには、
時間は作るもの。都合はつけるもの。
短い期間だったけど、先生と過ごした山での時間は
中学生の自分との対話にもなったし、
あれから酸いも甘いもいろんなことがあって大人になり、
でも自分なりに一生懸命生きていたから、先生とも笑顔で会えた。
通信簿は赤点だらけでツッコミどころ満載かもしれないけど、
”よく頑張ったで賞”はもらえるような気がしたから。
それに、山に登るといつでも先生に会えます。
ふうふう言いながら山道を歩き、ふと空を見上げると、
先生の優しくて力強い声が聞こえてくるのです。
自分のペースで、無理せずに。
歩幅は小さく。でも歩みを止めないで。
疲れたら少し休もう。
少し休んだら、またゆっくり歩き出そう。